夜、仕事を終えてソファに腰を下ろす。冷蔵庫から取り出した瓶を傾けると、スパイスの香りがふわりと広がる。炭酸水で割ったグラスを手に、ひとくち飲む——そんな「小さな儀式」として、クラフトコーラを選ぶ人が静かに増えています。ランキングや話題の商品名だけでは語り切れない、この人気の背景には何があるのでしょうか。
クラフトコーラが人気を集めるまでの流れ
クラフトコーラという言葉が日本で広まり始めたのは、2018年前後のことです。当初はごく一部の食通やスパイス好きの間でのみ知られる存在でしたが、2020年代に入ると加速度的に認知が広がり、今では1日に1ブランドが生まれると言われるほどの盛り上がりを見せています。
この急速な広がりを後押ししたのは、テレビや雑誌などのメディア露出だけではありません。インスタグラムやYouTubeを通じて、作り手や愛飲者が「飲む体験」そのものを発信したことが大きく影響しています。美しいボトルのデザイン、スパイスが浮かぶシロップの琥珀色、割り方や飲み方のバリエーション——それらがビジュアルとして映えるコンテンツになりやすく、自然と話題が広がっていきました。
また、クラフトビールやスペシャルティコーヒーが辿ってきた道と重なる部分も多くあります。「大量生産品にはない個性と背景を持つ飲み物を選ぶ」という消費行動が、飲料全体に浸透してきた流れの中で、クラフトコーラもその一角を担うようになったのです。

健康志向との深いつながり
人気の背景を語るとき、「健康志向」は外せないキーワードです。クラフトコーラの多くは、シナモン・カルダモン・クローブ・生姜・コリアンダーといったスパイスを主原料としています。これらは古くからアーユルヴェーダや漢方の世界で用いられてきた素材であり、「体に働きかける食」への関心が高まる現代において、自然と注目を集めやすい素材群です。
加えて、添加物を使わない「クリーンラベル」への需要も高まっています。市販の炭酸飲料に含まれる人工甘味料や着色料を気にする人が増える中、天然素材だけで作られたクラフトコーラは「飲むことへの後ろめたさが少ない」という点でも支持を集めています。
ただし、ここで注意したいのは、「体にいい」という断定的な表現は慎むべきだということです。スパイスや植物素材の働きについては研究が進んでいる分野もありますが、個々の飲料としての効能を保証するものではありません。あくまで「素材の背景に興味を持ちながら、丁寧に選んで飲む」という行為そのものが、健康的なライフスタイルの一部として位置づけられているのだと考えるほうが自然です。
- シナモン・カルダモン・生姜など、歴史あるスパイスを主原料とするものが多い
- 人工甘味料・着色料不使用の「クリーンラベル」志向と相性がよい
- 「何を飲むか」を意識的に選ぶ行為が、生活の質を高める感覚につながっている
「手仕事」と「物語」を求める消費の変化
人気を読み解くもうひとつの軸は、消費者が「物語のある商品」を求めるようになったことです。誰が、どこで、どんな思いで作ったのか——そうした背景を知ってから飲みたいという欲求は、クラフトビールやスペシャルティコーヒー、ナチュラルワインの広がりとも通底しています。
クラフトコーラの作り手には、薬剤師や料理家、発酵の専門家、地域の農家と組んだ地方のスタートアップなど、多様なバックグラウンドを持つ人々がいます。それぞれが「コーラ」という親しみやすいフォーマットを借りながら、独自の世界観を表現している。その多様性こそが、飲む人の好奇心を刺激します。
さらに、「地域性」も重要な要素です。北海道産のハーブ、沖縄産の黒糖、高知産の柑橘——日本各地の素材を使ったクラフトコーラは、旅先の記念品としても、産地への共感を示す選択としても機能しています。「どこで作られたか」という情報が、飲む体験に奥行きを与えているのです。

ノンアルコール・夜の時間帯との親和性
見落とされがちな視点として、「ノンアルコール需要の高まり」があります。健康意識の変化や、翌日のパフォーマンスを意識した「ソバーキュリアス(飲まない選択を積極的に楽しむ)」という生き方が広まる中、アルコールに代わる「大人の飲み物」へのニーズが高まっています。
クラフトコーラは、その受け皿として理想的な存在です。スパイスの複雑な香りと適度な甘み、炭酸の刺激は、ビールやハイボールに近い「飲む満足感」を与えてくれます。アルコールを含まないにもかかわらず、「ただの甘い飲み物」とは一線を画す複雑さがある。それが、夜の時間帯に選ばれる理由のひとつです。
平日の夜、仕事を終えてから就寝までの数時間。その時間をどう過ごすかに、かつてよりも丁寧に向き合う人が増えています。サウナや銭湯でととのった後、ヨガやストレッチで体をほぐした後、あるいは読書や音楽を楽しみながら——そうした「夜の儀式」の中に、クラフトコーラはすっと溶け込みます。
クラフトカルチャー全体の盛り上がりとの連動
クラフトコーラの人気は、単独の現象ではありません。クラフトビール、スペシャルティコーヒー、クラフトジン、ナチュラルワイン——「大量生産ではなく、作り手の個性と哲学が宿った飲み物を選ぶ」という潮流が、飲料文化全体に広がっています。その流れの中でクラフトコーラが注目されるのは、必然とも言えます。
さらに、「コーラ」というフォーマットの親しみやすさも強みです。ビールやワインと違ってアルコールの知識が不要で、子どもから大人まで飲める。それでいて、スパイスや素材の奥深さを知れば知るほど楽しめる。間口の広さと奥行きの深さを兼ね備えているのが、クラフトコーラというジャンルの魅力です。
また、近年は「シロップタイプ」の商品が増えたことで、家庭での楽しみ方の幅も広がりました。炭酸水で割るだけでなく、牛乳や豆乳、お湯で割ったホットドリンクとして楽しんだり、スイーツのソースとして使ったり。ひとつのシロップから複数の体験が生まれることが、リピート購入につながっています。

まとめ
クラフトコーラの人気は、単なるトレンドではなく、複数の社会的な変化が重なった必然のように見えます。健康志向の高まり、「物語のある消費」への転換、ノンアルコール需要の拡大、クラフトカルチャー全体の盛り上がり——それらが交差する場所に、クラフトコーラは静かに根を張っています。
ランキングで上位に入る商品を追うよりも、「なぜこのスパイスなのか」「どんな思いで作られたのか」を知りながら選ぶ体験のほうが、飲む喜びを深めてくれます。夜の時間をもう少し豊かにしたいと思うなら、クラフトコーラはその入り口として十分な魅力を持っています。「夜にととのう、大人のクラフトコーラ」——そのコンセプトが指し示すように、一日の終わりに自分のための時間を作る習慣の中に、ととコーラをそっと加えてみてください。
